医療費控除のセルフメディケーションってどんな制度?仕組みや注意点を解説
公開日:医療費控除の「セルフメディケーション税制」という制度をご存じでしょうか?普段から薬局やドラッグストアで市販薬を購入している方は、この制度を利用することで所得税や住民税の負担を抑えられるかもしれません。本記事では、セルフメディケーション税制の仕組みや手続き方法について紹介します。
コンテンツ
医療費控除の特例「セルフメディケーション税制」とは
セルフメディケーション税制は対象となるOTC医薬品※の購入金額が年間1万2000円を超えた場合に、「医療費控除の特例」として所得控除が受けられる制度です。所得控除とは、所得税や住民税の基礎となる所得金額から、納税者の実情に応じて一定額を差し引ける仕組みで、税負担を軽くする効果が期待できます。
OTCとは、薬局やドラッグストアなどで処方箋なしで購入できる医薬品のことです。OTCとは「Over The Counter」の略語で、カウンター越しに薬を購入する形式が由来となっています。以前は市販薬や大衆薬という通称で呼ばれていましたが、2007年より国際的表現として「OTC医薬品」と呼ばれるようになりました。
セルフメディケーション税制の対象となるOTC医薬品は、厚生労働省のウェブサイトで確認できますが、より簡単な見分け方としては医薬品のパッケージに記されている「共通識別マーク」を確認する方法があります。ただし、共通識別マークの掲載がない対象OTC医薬品もあるので、その場合は店頭で聞いてみるとよいでしょう。
セルフメディケーション税制で所得から控除できる費用は、自分のために購入した分だけでなく、生計を一にする家族のために購入した分も含まれます。また、この制度を利用するには、健康のために下記「一定の取組」を行い、健康増進や病気の予防に取り組んでいる必要があります。
- 一定の取組
1.健康保険組合などが実施する健康診査(人間ドック、各種健診・検診等)
2.市区町村が健康増進事業として行う健康診査
3.予防接種(定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種)
4.勤務先で実施する定期健康診断(事業主検診)
5.特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
6.市区町村が健康増進事業として実施するがん検診
出典:国税庁「セルフメディケーション税制とは」
※参考:厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について|2 セルフメディケーション税制対象品目一覧」
セルフメディケーション税制でどのくらい節税できる?
セルフメディケーション税制で節税できる金額の目安は、対象OTC医薬品の購入金額が1万2000円を超えた分(所得から控除できる金額、最高8万8000円)に所得税・住民税の税率をかけることで計算できます。
年収400万円の会社員の方で、対象医薬品を年間4万円購入した場合の節税額の目安は以下のとおりです。所得税率は5%(年収に応じた目安)、住民税率は10%(一律)とします。
【所得から控除できる金額】
= 対象OTC医薬品の購入金額 - 1万2000円
= 4万円 - 1万2000円
= 2万8000円
【節税できる金額】
所得税:2万8000円 × 税率5% = 1400円
住民税:2万8000円 × 税率10% = 2800円
合計:4200円
※あくまで目安の金額です。実際に節税できる金額とは異なる場合があります。
上記の例では、4200円の税金を抑えられる結果となりました。節税できた金額は、所得税は確定申告後に還付され、住民税は翌年分の住民税から減額される形で反映されます。
セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の手続きは確定申告で
セルフメディケーション税制による医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。申告期間は通常、対象となる年の翌年2月16日~3月15日です。本制度は通常の医療費控除と同様、年末調整による手続きはできないので、会社員の方は注意しましょう。
確定申告時には申告書類に加えて、「セルフメディケーション税制の明細書」の添付が必要です。国税庁ウェブサイト内の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、パソコンやスマホの画面案内に沿って入力するだけで申告書類と明細書を作成できるので便利です。確定申告に不慣れな方や計算ミスが心配な方は活用してみましょう。
なお明細書の作成にあたって、健康診断などを受けた際の証明書類(結果通知表や領収書)や対象医薬品のレシートが必要なので、捨てずに保管しておきましょう。ドラッグストアなどで対象OTC医薬品とその他の商品を合わせて購入した場合は、レシートの対象商品欄に★印などのマークが記載されている場合が多いので、必要な情報を抜粋して明細書に記載しましょう。
証明書類やレシートは確定申告時の添付は不要ですが、後日税務署から提出を求められる場合があるため確定申告の期限から5年間保管しておく必要があります。
※参考:国税庁「確定申告書等作成コーナー」
セルフメディケーション税制を利用する際の注意点
セルフメディケーション税制を利用する際は、以下の点に注意して手続きしましょう。
通常の医療費控除との併用はできない
セルフメディケーション税制は医療費控除の特例として設けられている制度なので、通常の医療費控除との併用はできません。通常の医療費控除は、年間の医療費が10万円を超えた場合に、超えた金額分を所得から控除できます。どちらも利用できる場合は、節税効果の高い方を選ぶとよいでしょう。医療費控除についてはこちらの記事で詳しく紹介しているので、合わせてご覧ください。
関連記事:医療費控除の仕組みを知ろう。対象項目や手続き、計算方法を解説
健康診断などの費用は控除の対象外
前述のとおり、セルフメディケーション税制を利用するためには、健康診断や人間ドックの受診など「一定の取組」が必要ですが、これらの取組にかかった費用は控除の対象外です。所得から控除できるのは、あくまで対象OTC医薬品の購入費用のみなので、間違えて控除金額に含めないようにしましょう。
ネットで対象医薬品を購入した場合でも領収書の原本が必要
ドラッグストアや薬局ではなく、ネット通販で対象医薬品を購入している方もいるでしょう。インターネットで購入した対象医薬品もセルフメディケーション税制の対象となりますが、その場合は領収書の原本を発行してもらう必要があります。
PDFなどの電子データで発行された領収書を自宅でプリントアウトしたものは証明書類として認められないので、販売元に領収書の発行を依頼しましょう。
まとめ
セルフメディケーション税制は医療費控除の特例として設けられている制度です。普段あまり病院で受診する機会がなく通常の医療費控除を利用できない方でも、市販薬をよく購入しており、健康の維持・増進や病気の予防に取り組んでいる方であればセルフメディケーション税制を利用できる可能性があります。
扶養しているご家族がいる場合は、その家族のために支払った対象医薬品も控除の対象となるので、ご家庭で年間どのくらい市販薬を購入しているか把握しておき、セルフメディケーション税制が利用できないかチェックしておきましょう。