「年収の壁」引き上げ、あなたの家計にも影響があるかも?
公開日:
2025年から「年収の壁」に関する制度が大きく見直されることをご存じでしょうか。これまで「扶養内」で働ける年収のボーダーラインとして意識されていた金額が、制度改正により引き上げられました。特にパートやアルバイトで働く方にとっては、働き方を見直すきっかけになるかもしれません。本記事では、「年収の壁」とは何か、そして2025年からどのように変わるのか、わかりやすく解説していきます。
コンテンツ
「年収の壁」とは? 〜2024年までの基本を押さえよう~
パートやアルバイトで「扶養内」で働く方の多くが、「年収の壁」を意識して勤務時間や収入を調整しているのではないでしょうか。年収の壁とは、税金や社会保険料がかかり始める年収のボーダーラインのことです。これを超えると結果として手取り収入が減ってしまうため、あえて勤務時間や収入を抑える人が多く、労働力不足が深刻な日本において社会問題となっています。
年収の壁には、大きく分けて「所得税に関する壁」と「社会保険に関する壁」の2種類があります。それぞれ、どのようなラインがあるのかを、2024年までの制度をもとに具体的に見ていきましょう。
所得税に関する壁
所得税に関する年収の壁は、次の3つがあります。
- 所得税に関する壁
壁の名称 | 内容 |
103万円の壁 | 年収103万円を超えると所得税が課される |
150万円の壁 | 年収150万円を超えると配偶者特別控除の減額が始まる |
201万円の壁 | 年収201万円を超えると配偶者特別控除が受けられなくなる |
103万円の壁は、労働者本人に所得税がかかり始める年収のボーダーラインです。パートやアルバイトなどの給与所得者の場合、基礎控除(※1)48万円と給与所得控除(※2)55万円を合計した103万円が収入から差し引かれるため、年収がこの金額以下であれば所得税はかかりません。
※1:合計所得金額に応じて一定の金額が所得から差し引かれる仕組み(合計所得が2,500万円以下の場合に適用)
※2:給与収入額に応じて一定額が差し引かれる仕組みで、給与所得者にとっての必要経費に相当するもの。
150万円の壁・201万円の壁は、「配偶者特別控除」に関する年収のボーダーラインを意味します。配偶者特別控除とは、配偶者の年収が103万円を超えている場合でも、一定の収入以下なら年収に応じた控除が受けられる仕組みです。この控除が適用されることで、納税者(配偶者を扶養している人)の所得税が軽減されます。
150万円の壁は、配偶者特別控除を満額受けられる年収のボーダーラインです。例えば納税者本人の合計所得が900万円以下(会社員なら年収1,095万円以下)の場合、配偶者の年収が150万円以下であれば、38万円の控除が受けられますが、それを超えると段階的に控除される金額が引き下げられます。
201万円の壁は、配偶者特別控除が受けられる年収のボーダーラインです。納税者本人の合計所得が900万円以下の場合、配偶者の年収がおよそ201万円以下であれば、3万円の控除が受けられますが、それを超えると配偶者特別控除が受けられなくなります。
社会保険に関する壁
社会保険に関する年収の壁は、次の2つです。
- 社会保険に関する壁
壁の名称 | 内容 |
106万円の壁 | 一定の条件を満たす企業では、年収106万円以上になると社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務付けられる |
130万円の壁 | 年収130万円以上になると、配偶者の社会保険の扶養に入ることができなくなり、自ら保険料を納めることになる |
106万円の壁は、パートやアルバイトであっても勤務先の社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入義務が発生するボーダーラインです。対象者は、従業員51人以上の企業に週20時間以上勤務している従業員で、月額賃金8.8万円(年収換算で約106万円)以上の方が対象となります。
一方で130万円の壁は、すべての人に国民年金・国民健康保険の加入義務が生じるボーダーラインです。例えば配偶者が会社員の場合、自分の年収が130万円未満であれば国民年金の第3号被保険者となりご自身の保険料負担は必要ありません。これが年収130万円以上になると第3号被保険者から外れ、自ら保険料を負担する第1号被保険者となります。
同様に、配偶者の健康保険の扶養に入れるのも年収130万円未満が基準となるため、この金額を超えるとご自身で国民健康保険に加入しなければなりません。
2025年から「年収の壁」はどう変わる?
2025年から、「所得税に関する年収の壁」が大きく変わります。この変更は、主にパートやアルバイトで働く主婦・主夫が、より自由に働けるようにするためのものです。
本当はもっと働きたいのに、「税金が増えて手取りが減るから」と働く時間を抑えていた人が多くいます。特に女性にその傾向が強く、年収の壁が働くチャンスを制限していたのが現実です。政府は、こうした「働き控え」をなくし、より柔軟に働いて収入を増やせるようにすることで、家計の負担軽減や人手不足の解消につなげたい考えです。
「所得税に関する壁」の主な変更点
所得税に関する壁の変更点は、主に次の2つです。
- 変更点1:基礎控除と給与所得控除の引き上げ
2025年から、所得税がかかり始める年収が103万円から最大160万円まで引き上げられました。具体的には、基礎控除と給与所得控除の金額が、それぞれ次のように変わります。
従来(2024年まで) | 2025年から | |
基礎控除 | 48万円 | 95万円 |
給与所得控除 | 55万円 | 65万円 |
所得税が発生する 年収のボーダーライン |
103万円 (48万円+55万円) |
160万円 (95万円+65万円) |
上表のとおり、給与所得者の方は年収160万円(基礎控除95万円+給与所得控除65万円)までなら、所得税がかからなくなります。この変更により、これまで扶養内で働くことを意識して勤務時間や収入を抑えていた方が、安心して収入を増やしやすくなり、働き方の選択肢が広がるでしょう。
なお、上表は年収200万円以下の場合の控除額です。年収200万円を超える場合の控除額については以下のサイトでご確認ください。
参考:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」
- 変更点2:特定親族特別控除の新設
さらに、「特定親族特別控除」という制度が新たに設けられます。この制度は、大学生世代(19歳以上23歳未満)の親族がいる場合、その親族の収入に応じて、一定の控除が受けられるものです。
例えば大学生の子どもの年収が150万円以下なら、親の所得から63万円を控除できます。また、子どもの年収が150万円を超えている場合でも、188万円までは一定の控除が受けられます。大学生の子どもがいる方にとっては、「子どもが働きすぎて扶養から外れるのではないか」という悩みが減ることになるでしょう。
2025年「年収の壁」新ルールの見落としやすいポイント
今回の税制改正で「年収の壁」が引き上げられたことは多くの方にとってメリットといえますが、注意すべき点もあります。特に以下の3つの点は、見落としがちなポイントなのでチェックしておきましょう。
「社会保険の壁」は変わらない
2025年の改正は、あくまで「所得税」に関する年収の壁が対象です。「社会保険」に関する106万円の壁・130万円の壁には、現時点で変更はありません。年収160万円以下で所得税がかからなくても、年収106万円を超えると社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入が義務付けられる可能性があります。手取りが減ってしまう場合もあるため、働く時間を増やそうと考えているパート・アルバイトの方は、この点を留意しておきましょう。
ただし、厚生労働省が進めている「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入している企業に勤めている場合は、勤務先の社会保険に加入しても、手取りが減らないような補助措置(手当支給や賃上げなど)が講じられている可能性があります。勤務先がこの制度に対応しているか、確認しておくとよいでしょう。
また2026年10月には、106万円の壁(賃金要件)が撤廃される予定です。さらに2027年10月には企業規模の要件が段階的に緩和されることも予定されています。所得税の壁とは別ものですが、中小企業で働くパート・アルバイトの方に影響がある内容なので合わせて覚えておきましょう。
年収200万円超の人は「限定措置」
2025年の税制改正によって基礎控除が最大95万円まで引き上げられますが、これは年収200万円以下の人に限った恒久措置となります。
年収が200万円を超える場合、2025年と2026年は合計所得金額に応じて58万円~88万円の控除が受けられますが、2027年以降は一律58万円に統一されます。
出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」
上図のとおり、年収200万円超(厳密には年収200万3,999円超)~年収850万円の方は、2年間限定で基礎控除額が上乗せされる仕組みになっています。2027年以降は基礎控除の上乗せが終了するため、改正の恩恵が限定的になる点に注意が必要です。
住民税への影響は限定的
今回の税制改正は主に所得税に関するものであり、住民税の基礎控除(43万円)には変更がありません。そのため、所得税が非課税となる年収ラインが160万円に引き上げられても、住民税の非課税ラインは約110万円程度にとどまります。(基礎控除43万円+給与所得控除65万円=108万円)
そのため、住民税がかからない年収のボーダーラインラインを意識する場合は、所得税の非課税ラインとは異なる点に注意しましょう。
まとめ
2025年から引き上げられる「年収の壁」は、特にパート・アルバイトとして働く人や、その家族にとって大きな変化をもたらします。所得税の非課税ラインが引き上げられることで、「手取りを減らしたくないから働きすぎない」といった考え方に変化が生まれ、働き方の幅が広がる可能性があります。今回の制度改正をきっかけに、ご自身やご家族の働き方・収入計画を見直してみませんか。